SHURE
『SRH240』、『SHR440』、『SHR840』


音楽ソースを忠実に再現、高解像度で奥行き感まで描き出すというプロフェッショナル・ヘッドフォン3タイプを一気に試聴。日常の音楽生活はプロ用でどう変わるのか?

私が普段『iPod』で使っているのはカナル型のSHURE『SE110』である。ウレタンフォームのような柔らかいイヤパッドを使い周囲の音を最大93%まで減少させるため、音漏れの心配がなく、周囲がうるさくても小音量再生でよく聞こえるのだ。バランスドアーマチュア型でありながら、低音の量感もたっぷりあり、音色はウォームいやホットと言ってもいいだろう。

そんなSHUREが密閉式のモニターヘッドフォンを発売した。SHUREはマイクロフォンやアナログプレーヤーのカートリッジで有名だが、意外なことにいままでプロ用のモニターヘッドフォンは作っていなかったのだ。それではコンシューマー用とプロ用、音楽用とモニター用の違いはどこにあるのか? 一般的にプロ用モニターとは、レコーディング用に録音した音源をチェックしたり、ミキシングした音楽を聞くために使われる。要求される性能は下記のような事だ。
●長時間使っても疲れない
●ガンガン使っても壊れない
●壊れても修理ができる
●ワイドレンジである
●フラットな周波数特性を持つ
●解像度が高い
●音場感の再現性に優れる

これらの項目を優先すると下記の事は二の次になる。

●小型、軽量である
●携帯性に優れている
●装着した時にカッコイイ
●遮音性が高い
●使用する機器を選ばない
●音楽を楽しく聞かせる
●素材や質感にこだわる

まあ、こんな感じである。つまり、プロ用モニターヘッドフォンと言えば、重くて、大きくて、ダサいけど、録音の良し悪しまでわかってしまうほど高音質で、音楽を分析的に聞かせるっていうイメージがあって、積極的にプロ用だから買おうという気にはなれない。しかし、例外もあってプロ用でも個性的な音で音楽性豊かだったり、フラットバランスではなく低音に厚みがあったりと、こればかりは聞いてみなければわからない。

そこで今回は、SRHシリーズの中でプロDJモデルを除く、3タイプを一気に聞いてみることにした。全てオープン価格で、『SRH240』実勢価格は約6300円、『SRH440』が約1万2000円、『SRH840』が約1万9000円となっている。

001

さて、それでは早速、拙宅の『マークレビンソン』で試聴と思ったのだが、すっかり忘れていたがハイエンドモデルなのでヘッドフォン端子など付いていない。仕事部屋にある機材で唯一、ヘッドフォン端子があるのは真空管プリアンプだが、これは特殊過ぎて音の参考にならないだろう。かくなるうえは『バーブラウンOPA-627』を使って電池駆動のヘッドフォンアンプを自作……するのは時間がかかるので思いとどまる。オーディオ専門サイトではないので妙なこだわりは捨てて、『iPod touch』で素直に聞くことに決定。あまりもガッチリしたヘッドフォン端子に多少違和感があるがまあ良しとしよう。

002


まずは『SRH240』である。エントリーモデルあり、携帯音楽プレーヤーに最適とのことなので『iPod』に接続することも想定内に違いない。仕上げはピカピカの艶ありで曲線的なフォルムだ。コードはストレートタイプで着脱はできない。ごくオーソドックスな密閉式のヘッドフォンである。

003

004

耳の穴に入れる耳栓のようなカナル型から、耳全体をおおう密閉式にすると、まずかなりの開放感が味わえる。耳栓がなくなり音楽が開放的に聞こえてくる。こちらの方が遮音性は弱いため、大きな騒音がする場所には向かないが、歩きながら聞いた場合、カナル型特有の骨伝導のように足音が耳に響くことはない。音の傾向は高音が突き抜ける感じだ。バランス的に考えると低音が不足しているのかもしれない。SRHシリーズの中で比較すると、まず181gと3モデル中最軽量である。

そしてコードは2mのストレートタイプ。モニター用は通常、カールコードが付いている。下画像の上がストレートで下がカールコードだ。動いたときにコードがからみにくいのがカールコードのメリットだが、そのかわり重くて邪魔。さすがにこれで歩くのはつらい。軽い、安い、ストレートコードと三拍子揃った『SRH240』は『iPod』モバイル用に決まりだ!

005


お次は『SRH440』である。グッと落ち着きのあるツヤ消しのボディーでセンター部分はサンドブラス仕上げのような粗いザラザラで、シルバーのヘアーラインでロゴと製品名が浮き彫りになっている。このデザインはプロっぽい! さすが1万円を超えるモデルだ。左右を示す「L」と「R」のマークはRが赤、Lが青で色分けされ、さらに正面にも刻印のように線彫りでL、Rの文字が入っている。コードは着脱式で、万一断線した場合には交換できる。さらに、オプションでストレートコードもあるのだ。交換すればモバイル用としても使える可能性がある。重量は272gとやや重くなる。しかし、耳へのフィット感は『SRH240』と同じイヤーパッドを使っているとは思えないぐらい違う。耳をカバーする部分の可動範囲が広くなる構造によって差が出ている。頭が大きい人なら確実にフィット感の違いを実感できるだろう。イヤーパッドを押しつける側圧は弱めなので、首を動かすとヘッドフォンがずれるかもしれない。一般的にモニター用は側圧が強めで、動いても頭にフィットするように作られているが、長時間使うと頭痛がしてくる。SRHシリーズはどれも側圧は弱めなので、コンシューマー寄りのモデルなのかもしれない。ともかく私は側圧が弱い方が好きなのだ。

006

007


交換式のカールコードはやはり重い! 長さは3mあるがカールしているので実質はストレートコードの2mよりも短い。これは不便なのでオプションのストレートで2.5mタイプの『HPASCA1』に交換することをオススメする。

コードの反対側は専用規格のプラグになっていて、間違って『iPod』に挿そうとしても細すぎて穴から抜けてしまう。プラグの外周にきりかきがあり、ここを90度回転してコードをロックしている。プロ用なのにここが樹脂製で削れてしまいそうでちょっと心配だ。まあ、そんなに何度も抜き差しする必要はないから問題ないのだろうが……

008

009


『iPod touch』で聞き比べてみると、『SRH240』に比べて低音が出て、高音とのバランスがとれている。高音は抜けはいいがなめらかで耳に刺激を与えない。『SE110』と比較しても情報量が増え、細かい音が聞こえてきた。その分、ノイズや録音のアラが聞こえてくるところが、さすがモニター用である。かと言って決してつまらない音ではなく、どちらかと言えばSHUREの特徴である中低音の厚みとウォームな音色が感じられる。これはモニター用としても音楽用としても使えると思う。『iPod』だけで聞くのはもったいないと思っていたら、別室のAVアンプと『iPod』を接続できることを思い出した。早速、専用ケーブルを探し出して接続した。アンプはパイオニア『VSA-AX4Si』でリモコンを使って『iPod』を操作できる。これでかなり音質向上! より低い音が出るようになり音の広がりや楽器の位置関係もハッキリ聞こえるようになってきた。BSデジタルや地デジで録画した映画やライブなどもこの『SRH440』で聞くと、いままで聞き逃していた音が聞こえくることが分かる。つまりAV用としても使えるのだ!

010


最後に『SRH840』を聞いてみよう。『iPod』では『SRH440』との違いはわずかしかわからない。ロスレスの高音質で録音していれば、差がわかるが、ビットレート256kbpsぐらいだとその差はほとんどない。まあこれを『iPod』専用に使うのは間違いなく宝の持ち腐れである。『VSA-AX4Si』+『iPod』でも、その実力をフルに発揮できないので『VSA-AX4Si』+東芝『RD-X9』でCDを聞いた。ここまで来るとさすがに『SRH440』との違いが聞こえてくる。まず低音の出方が違う。量感がやや増え、弾力があって弾むような感じなのだ。高音は密度を増して音楽全体に厚みが出てくる。あえていえばこちらのモデルの方が音楽用に向いているのではないだろうか。なぜなら音楽が楽しく聞こえてくるからだ。アクション映画などのハイスピードな低音と抜けのいい高音に関しては『SRH440』の方が好ましく感じられたが、ジャズやボーカル、アコースティックな楽器を聞くなら『SRH840』の方が気持ちよく聞ける。ピュアオーディオ用の機材を使えばもっといい音を聞かせてくれるに違いないと思わせるモデルだ。ただし300gを超える重さがあるので長時間使うと、それなりに首や肩が疲れるかもしれない。

011

012


コスパを考えれば、断然お買い得なのは『SRH840』である。他のメーカーと比べても、この価格でこの性能は抜群である。実際に試してみて装着感と重さが気にならなければ、『SRH840』を買っておけば間違いない。そして、私のオススメは『SRH440』である。まず、重さ272gと軽いのがいい。あくまでも主観であるが暑苦しすぎない低音。そしてボーカルをしっかり聞かせてくれる中域の厚さ、涼しげな高音。3モデルの中で最もモニター用ヘッドフォンらしい音を聞かせてくれた。『SRH240』は予算1万円以内で、密閉式のヘッドフォンをゲットしたい人向きかな。しかし、この音を聞いてSHUREの音ってこんなもんなのと思って欲しくない。エディチョイ2.0の読者なら、やっぱりあと5000円とちょっと足して『SRH440』を買って欲しいのだ。


(左から)SHURE『SRH240』、『SHR440』、『SHR840』

013


【SPEC】
●SHURE『SRH240』 重量約181g。型式=密閉ダイナミック型。感度=105dB/mW。再生周波数帯域=20Hz〜20KHz。インピーダンス=38Ω。ケーブル=両出し2mストレートコード 。/SHURE『SHR440』 重量約272g。型式=密閉ダイナミック型。感度=105dB/mW。再生周波数帯域=10Hz〜22KHz。インピーダンス=44Ω。ケーブル=片出し3mカールコード(着脱式)。/SHURE『SHR840』 重量約318g。型式=密閉ダイナミック型。感度=102dB/mW。再生周波数帯域=5Hz〜25KHz。インピーダンス=44Ω。ケーブル=片出し3mカールコード(着脱式)。

■SHUREのホームページ
http://www.hibino-intersound.co.jp/proaudio/shure



プロファイル
川野剛
カメラマンに憧れ中1で押し入れ暗室にこもる。高校で写真部部長。コピーライターとなるが、会社を辞め単身カナダに渡りアウトドアインストラクターを目指す。帰国後、AV、家電、デジカメ、Macの好きなライター稼業を続ける。家事検定3ツ星、NPS会員。

デジタルダイムTOPへ